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眼瞼下垂症 修正手術 secondary repair

過矯正(オーバーコレクション、挙がりすぎ)

過矯正の原因はいくつかあり、原因を突き止めて治療します。

過矯正の原因と治療方針

1.眼瞼挙筋腱膜の前転量が多すぎ
   治療➔➔ 挙筋後転術(眼瞼下垂の手術の逆の手術)
 
2.腱膜の固定点の不足(多くはまん中のみ挙がっている)
   治療➔➔ 挙がっていない部位(多くは外側と内側)を挙げるとまん中が下がる

3.眼球突出 瞼板の歪み
   治療➔➔ 挙筋後転術 瞼板形成術

4.他方の眼の眼瞼下垂 (ヘリングの法則:Herring`s low 片方のまぶたが下がると他方のまぶたが挙がる)
   治療➔➔ 他方の眼瞼下垂の治療

5.利き目・視力の左右差・生理的な調節 
   治療開瞼トレーニングなど


●一番多い原因は眼瞼挙筋の前転量の多過ぎ

前転量が過多になってしまう理由は医療ミスという訳ではなく、眼瞼下垂症手術ではそもそも前転量の見極めが難しく、前転量とまぶたの挙がりの程度が比例しないことが良くあるからです。患者さんによる個人差・左右のまぶたによる差が大きいので、例えば左右同じ前転量で手術しても左右差が生じることはざらにあります。眼瞼下垂の手術が難しいとされている理由の一つです。

●ではどうやって前転量を決定するか?

眼瞼挙筋の前転量の決定法ですが、手術の際に左右のまぶたの開き方をあわせる術中調整法と、特殊な計算式に基づいて前転量を算出する術前算出法があります。

手術中にぴったり合わせれば良いだろうとお考えの患者さんは多いと思います。しかし、術中調整法には限界があり、完璧に術中に調整したはずなのに後で大きくずれることをしばしば経験します。そこで、大きくはずれないような計算式を新しく作り、術前算出法と術中調整を組み合わせて用いることにより、再手術率は減少しました。

ただし、完全な計算式は存在しません。
全員が1+1=2になるような計算ならば難しくないのですが、数ヶ月後には1+1=1.5 や 1+1=1 になってしまう患者さんもあり、左右が異なることもあるので、正確な前転量の算出は難しいところです。

(※私が用いる計算式では、眼瞼下垂の重症度や挙筋機能などから算出するものですが、約9割の患者さんで計算はほぼ合いますが1割の患者さんでは若干ずれてしまいます。)

●特殊な眼瞼下垂では左右を合わせるのが難しい

さらに顔面神経麻痺・眼瞼痙攣(がんけんけいれん)・バセドウ病などのまぶたの開きに影響を及ぼす疾患がどちらかの眼にあったりすると非常に複雑なパズルになります。
このパズルを正しく解かないと修正が成功しないことを良く経験します。

<症例> 1.過矯正(オーバーコレクション)



▼病歴

 近所の眼科の医師による眼瞼下垂の手術を2度受けた。

・1回目の手術
右眼の眼瞼下垂症手術を受けたが、まぶたの下垂は改善しないために再手術

・2回目の手術
手術時間は3時間ほどがかった。手術中「筋肉が無い」などと言われ、何度もまぶたを挙げ直したという。術後にはまぶたが変形して、閉じることが出来なくなった。

手術を受けた医師の診察を受けたところ、自分のまぶたは一般の患者さんと違う特殊なまぶたであったためこのような結果になった、修正をしても治すのは難しいだろうと言われたとか。

「これから先このままの眼で生きていかなくてはいけない」と、暗闇の中に突き落とされたような気持ちだったとのことです。あきらめずに頑張って医師を探して、ここまでたどり着いて頂きました。

●初診時の状態
(最終術後2ヶ月)

正面

下向き

<右まぶた>
兎眼(眼が完全に閉じない状態) 
内側の過挙上(挙がり過ぎ)
内側の二重が狭い
まつげの内反

<左まぶた>
眼瞼下垂(中等度)

右のまぶたは皮膚を切り取られている様です(皮膚が少ないと修正が難しくなる)。

▼手術計画

患者さんは「早く治したい」と思いますが、あせりは禁物です。もう一度手術が上手くいかないと修正がとても難しくなります。

治療終了までの期間はかかりますが、失敗しない様に段階を踏んだ治療計画が必要です。兎眼を放置するとひどい角膜障害になりますので、まずは緊急にまぶたを下げる手術をしなくてはなりません。
最終的には両眼に数回の手術が必要となります。

<手術1> 右 腱膜後転(延長)術
 目的:兎眼の治療
 
  ↓数ヶ月後

<手術2> 右 眼瞼形成術

  兎眼の再発の治療まぶたの形を整える 

  ↓数ヶ月

<手術3> 左 部分切開法(小切開法)眼瞼挙筋腱膜前転術

 目的:右のまぶたを左のまぶたに合わせる


※兎眼修正術は難しい手術である

まぶたを下げる手術は挙げる手術に比べて難しく、まぶたの高さのコントロールは簡単ではありません。
左右差無く仕上げることが最終的な成功の鍵ですが、この症例ではもう片方のまぶたにも眼瞼下垂がありますので考慮しつつ治療を進める必要があります。 しかし、もう片方のまぶたを手術すると、両方のまぶたに影響がでてコントロールがさらに難しくなるのです。


◆◆◆手術1◆◆◆

<右まぶたの修正手術(兎眼矯正術)>


(※内側のまぶたが完全に閉じなくすきまがあいています。)

■右兎眼修正術(眼瞼挙筋後転術)

1.手術の傷跡を切開
傷跡が少し目立っているが、この時点では皮膚の余裕が少ないために傷跡の皮膚を切り取らない。

2.眼瞼挙筋をゆるめる
まぶたの中をきれいに剥離してみると、眼瞼挙筋の内側部分はかなり短縮され瞼板と固定されていた。挙筋腱膜が存在しないので、簡単な処置では緩めることは出来ない。 挙筋を瞼板から外して、ミュラー筋から剥離をして、ミュラー筋の上方に固定し直す。結膜がたわんで拘縮を生じていたので解除する。

3.二重の調整
まつげの内反を修正して二重のひきつれを治すために、瞼板前組織の癒着をはずして移動、組織不足の部位に組織を移動。

手術時間:約40分


●術後20日



右:挙がり過ぎていたまぶたの内側は下がった。

兎眼治癒(眼を閉じることは可能)
二重のひきつれ改善
まつげの内反改善

左:眼瞼下垂で開きが悪い状態 (→左右の眼の大きさの差の原因)


右眼は完全に閉じることができるようになりました。

手術の経過は良好です。が、しかし、、、、、

現状では左の眼瞼下垂 →まぶたの左右差が大きい
(社会復帰の妨げになっています。)
右の手術の経過がとても良いので、あとは左右がある程度そろえばすぐにでも社会に復帰できます。

→当初は兎眼の修正の後十分に落ち着くのを待った後に、もう片方を手術して左右差を無くして終了という計画でしたが、通常の社会生活に戻ることを優先するためもう片方の眼瞼下垂の修正を急いで行うことになりました。

兎眼の修正および眼瞼下垂の術後は、数ヶ月後に後戻りのためまぶたの開きが変化して、もう片方にもその影響が及び左右のずれが生じてしまい修正の必要があります。ですが、今回は状況が良く後戻りにも小さな修正で対処できそうです。今後の手術に際してはほとんど仕事を休まずに乗り切ることができるのではないかと思います。


▼手術計画変更
<手術1> 右 腱膜後転(延長)術
目的:兎眼を治す ➔➔➔済み(ほぼ成功) 

↓数ヶ月後

<手術2> 右 眼瞼形成術

目的:まぶたの形を整える ➔➔➔キャンセル

↓数ヶ月


<手術3> 右 部分切開法(小切開法)眼瞼挙筋腱膜前転術
➔➔➔前倒し施行
目的:右のまぶたを左のまぶたに合わせる



◆◆◆手術2◆◆◆
<左まぶたの眼瞼下垂症手術>

●術前 
眼瞼下垂(中等度) MRD:1mm


※課題:土台が異なる左右のまぶたを同じ二重まぶたにする

この手術は、通常の眼瞼下垂手術(開きやすくする手術)では無く、右のまぶた(兎眼修正後)に合わせて左のまぶたのカーブと二重を作る必要があります。

まぶたのカーブを同じにするのは難しくありませんが、このような症例で二重の左右差を無くすのは技術的に難しいものです。右のまぶたは皮膚を切り取られているために、そもそも両方のまぶたの皮膚の余裕が違っており、まぶたの土台に差がある状態だからです。二重の幅が合ったとしても、何となく違う印象の二重になることがあります。術後の二重まぶたをうまくイメージして、正確に皮膚の切開や内部の処理を行う必要があります。


●手術


部分切開法(小切開法)眼瞼挙筋腱膜前転術

皮膚切開:約18mm切開
通常の位置を切開(右より高い位置)
皮膚切除:なし
腱膜前転術:挙筋腱膜を瞼板へ固定 4カ所
(右のまぶたの形に合わせて内側をあげて作成)

手術時間:約18分


左右のまぶたの大きさと形がぴったり合うように、 やるべきことはすべてやり尽くして、祈るような気持ちで手術します。

●術後(7日)


腫れは比較的少ない状況です。

患者さんは、「過去に自分が受けた眼瞼下垂の手術経過とは驚くほど違う。とても軽くて楽な手術だった」との感想でした。

部分切開法(小切開法)ではこれくらいの腫れが少ないのが通常です。


●術後(約2ヶ月後)


右:兎眼修正後の後戻りはない
     二重は若干の乱れあり
左:眼瞼下垂は治った

まぶたの開き&二重の左右差は少ない

左右のまぶたの形が揃っているため、サングラスで隠さなくても外出できる状態になりました。

両眼に一回ずつの手術でここまで治りました。今後は、右のまぶたの後戻りや傷跡などに対する小さな修正が必要になることが予想されます。

もう大丈夫です!

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